2025-07-27#短編小説

通り道 3

家の引き戸を開けると、キッチンの明かりが灯っている。

「いらっしゃい」

顔を上げた伯母が軽く手を振る。逆の手で扇子をあおいでいる。

「今日も蒸すわね。メモに書いてたかしら。エアコンが壊れてるのよ」

昔と同じように、伯母は目元で笑う。髪は短く整えられ、ピアスが耳元で揺れている。

「今日はお世話になります」

「そんな堅くなんないでよ。冷蔵庫に麦茶があるの。自分で注げるわね?」

そう言って伯母は椅子の背にもたれる。僕は麦茶を出してグラスに注ぎ、向かいの椅子に座る。

「ヒガシ君から聞いてるわよ。あなたに頼みごとをしてるって」伯母はそう言いながら、また扇子であおぐ。

「無理にやらなくていいのよ。東京まで来て、仕事なんてね。大人でも嫌よ」

「なんというか、ちょっと気になってはいます」僕がそう答えると、伯母はあおぐのを止めて、目を細める。

「子どもをそそのかすなんて、ヒガシ君もやるわね。あなた、すぐに動くタイプには見えないし」。伯母は立ち上がって、鞄を手に取る。

「私はこれから外。夜には戻るけど、好きにしてて」

「仕事ですか?」

「こっちでもいろいろ商売してんのよ。ヒガシくんも外で頭下げてくれてるし。私も頑張らないと」

伯母はパンプスを履きながら、こちらを振り返る。

「やってみたくなったら、とことんやってみなさい。でも中途半端はだめよ。書き手に失礼だから」

それだけ言って、伯母は手を振って出ていく。扉の閉まる音がして、急に静かになる。



夏木 絃

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